コラム

column

地盤改良になぜ石灰を使用するのか?いつから石灰を使用し始めたのか

2022年11月12日

地盤改良に使われる固化材の一つに石灰があります。
石灰とは、どのようなものかご存知でしょうか。
また、地盤改良に石灰を利用するのは何故なのか、いつから使用し始めたのかをまとめます。

地盤改良になぜ石灰を使用するのか?いつから石灰を使用し始めたのか

石灰とは

石灰と聞くと、グラウンドなどに白線を引く「白い粉」を想像する人は多いでしょう。
また、家庭菜園の経験者だと酸性に傾いた土壌を弱酸性度に戻すために土を混ぜ込む「苦土石灰」を思い出すかもしれません。

石灰は、太古に藻や珊瑚、貝殻といった炭酸カルシウムを多く持つ生物の死骸が堆積し石化したものです。
石灰岩を高温で焼き作られるのが「生石灰(酸化カルシウム)」で、生石灰を水と反応させて作るのが「消石灰(水酸化カルシウム)」です。

ちなみに、苦土石灰は石灰岩を基に作られるのではなく、ドロマイトという岩石が原料となります。
酸性に傾いた土壌を弱酸性に戻す効果がある苦土石灰を始め、石灰は強いアルカリ性の性質を持ちます。

生石灰は80%以上、消石灰でも60%以上のアルカリ分が含まれます。

石灰の用途

石灰は、さまざまなところで使用されています。
乾燥材として乾物類の保存に使われたり、こんにゃくの凝固剤としても使われたりします。
土木の現場では軟弱地盤の改良剤として活用されています。

改良剤に使われる理由

石灰には、いくつかの種類がありますが、地盤改良に使われるのは主に「生石灰」です。
その理由は、生石灰は水分を与えると発熱するためです。
水分が多く含まれる土壌に生石灰を混ぜ込むと、土壌内の水分により発熱します。
生石灰が発熱することで土壌内の水分が蒸発し石灰と土が結合し固化します。

水分過多により軟弱地盤となっていた場合、水分が減ることで地盤が強くなるでしょう。
また石灰が地中にある炭酸や炭酸ガスなどと化学反応を起こし、固結化する炭酸化反応が起こります。

土粒子がアルカリ分の強い石灰と反応することで安定した結晶鉱物となるポゾラン反応も起こります。
細かな土の粒子同士が反発し合う状態も、石灰に含まれたカルシウムイオンの影響で反発力を弱めます。

これらが同時に発生することで地盤を強固にしてくれます。

可塑性を持つ石灰

地盤改良材としては、石灰だけではなくセメントも使われます。
表層改良工法や柱状改良工法では、セメント系固化材を土と混ぜ合わせて固化させます。

ただ、有機質土や腐植土の場合はセメント系固化材では固まらない場合があります。
酸性度が高い土壌でもセメント系固化材は固まりません。
セメントはセメント水和物という結晶を生成することで固まる性質があり、時間の経過とともに硬化していきます。

石灰が固まる原理とは異なる固化法でセメントは固化し、さらに恒久性もあります。
ですがセメント系固化材では固化できない有機質土や腐植土、酸性度が高い土壌も固化可能です。

恒久性は劣りますが、可塑性がある点にも違いがあります。
石灰の種類や添加量の違いにより、改良硬度も変えやすいメリットもあります。
地盤改良材としてセメント系固化材を使用し、万が一固化が不十分となった場合には六価クロムが溶出する恐れがあります。

国土交通省がセメント系固化材を使用するときには、六価クロムの溶出試験を実施するよう通達を出していますが、石灰系固化材の場合はこの通達が出ていません。
石灰系固化材を使用した場合には、六価クロムの溶出の恐れはほとんどないためでしょう。

土壌改良剤としての歴史

石灰は古代ローマや古代インドでも、土壌改良剤として使われてきた歴史があります。
秦の始皇帝の時代にも、万里の長城の築造時に使われています。
古代インドは紀元前2000年ごろ、古代ローマは紀元前500年ごろ、万里の長城の築造は紀元前220年ごろだったといいます。

このような古い時代から、石灰は土壌改良剤や土壌安定剤として使われてきたことになります。
水分がある土に石灰を混ぜ込むと固まる性質を使うことで頑強な建造物を作り出していったのです。

日本でも「三和土(たたき)」と呼ばれる土間を作るために石灰が使われています。
三和土は土に石灰と砂、砂利を硬めに練り合わせて土間に敷き、最後に木片などで叩きしめて作ります。

土や砂、砂利だけでは固められませんが、石灰が混ざることで締め固められるのです。
漆喰もまたスサ(繊維質の物)や砂、油などと石灰(消石灰)を混ぜ合わせて作ります。
世界最古の木造建造物として知られる、奈良県にある法隆寺には漆喰壁が数多くあります。

塗り替えられた漆喰壁もありますが、古い時代のままの漆喰壁も数多く残っていますよね。
1400年前の建造物でも漆喰壁が使われ、現存しています。
このように、石灰の土壌改良効果は長い時間を経ても残るようです。

まとめ

コンクリート系固化材では、固化できない性質を持つ地盤でも、石灰系固化材であれは地盤改良が可能となる場合があります。
石灰を使った地盤改良自体は紀元前の時代からある歴史ある工法です。

紀元前220年に築かれた万里の長城や、1400年前に作られた法隆寺の漆喰壁が現在も残っているように、その土壌改良効果は確かなものといえるでしょう。